小学生だった頃、髪が 綺麗な明るい煉瓦色の
ふたつほど年下の女の子がいた。
色白でそばかすがあるかわいい子だった。
隣の警察寮に住んでいたから
お父さんは警察官だったのだろう。
近所の子たち数人で
学校帰りに辻の端でおしゃべりしていた。
突然 父親よりもずっと年配のおじさんが
その子の髪をつかんだ。
おまえはなんで髪を染めているんだ、子どものくせに!
それは言っちゃいけない!
心が騒いだ。
でも誰も 言葉を失っていた。
痛かった。
唸るように吐き捨てて行った大人が
憎らしかった。
この子のせいじゃない。
それにとても似合っていて
とても個性的だった。
でもそれゆえに学校でも何か言われているんじゃないかと
子ども心に思っていた。
気丈なその子は何も言わなかった。
綺麗な色で好きだよ。
それは慰めになったんだろうか。
本当の気持ちを言うことしかできなかった。
大人になって思う。
あのおじさんはなぜあんなことを言ったのか。
私は何か言えなかったんだろうか。
戦時中の何かを背負っていたのかもしれない。
でもあれはただ傷つけること以外の何物でもなかった。
心のどこかでかわいそうなことを言ったかな とは
思うことはなかっただろうか。
今もあの時の痛みが ある。
暑くないの
帽子持ってきてあげようか
ゴルフの、涼しいよ
いらない
ーーこの間使ってきたものよね
ねえ、あっつくないの?
うん、暑くないよ
はぁ〜 疲れたぁ
いつになったらこのドクダミ
抜き終わるんだろう・・・
あ、ドクダミいっぱい花が咲いてらぁ
ーー逆なでしたいのかな
ーーいやいや、そんなこと考えてもいない
お茶持ってきてやろうか
ーーどこから持ってくるのかな
ーー買ってくるっていうのかな
ーーお金ちょうだいっていうのかな
うん、今いらないよ
はぁ、スカートのままだけど
足が泥んこになっちゃったから、
どうやって洗い場に行こうかな
その前にこの高い段を上がれないよ
足が悪いんだもの
テラスの端に腰掛けて一休み・・・
まだ涼んでいるの?
ーー涼んでいないよ
ーーどうやって、この泥汚れの足を洗おうかって考えているの
誰との会話?
テレビの幕間に声を掛けてくる
悪気がない
関心もない
自分に降りかからないところにいる